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なぜクロコダイルは他のレザーに比べて圧倒的に高価なのか。
クロコダイルの革小物を見ると「これは高そうだな」とイメージされる方が多いと思いますが、なぜそうイメージするのでしょうか?革自体が高価そうだから?希少だから?それともブランドが意図的に価格を釣り上げているから?
例えばメゾンブランドのH社であれば、牛革などの一般的なレザーのバーキン30は、約140万円ほどなのに対し、クロコダイルだとなんと650万円以上になります。これらの差は表面のレザーがクロコダイルかそうでないかの差だけです。
この差は一体どこから生まれるのか。
クロコダイル製品を作り続けて25年の職人の知識と、マーケティングの観点、いち革製品好きの消費者として、クロコダイルの生物としての差から、レザーへの加工、生産者、販売業者の立場から、この記事を読めば各ブランドのスペシャリストとも対等に話せるレベルになることをお約束致します。
【サマリー】
⒈クロコダイルの性質によるもの
①育成期間の違い
②飼料(エサ)の違い
③体の大きさの違い
④気性の違い
⒉生産過程によるもの
①革に加工できる工場が限られる(タンナー)
②製品を生産できる工場が限られる
⒊販売者によって作り出されるもの
①意図的に生産数を絞ることで利益率を上げる
②補償問題になった時に面倒だから(補償に対する保険の意味)
長年革小物を生産販売する業界に身を置き、また、いち消費者としても革小物を愛する者として、熱が入ってしまい、少し長文となってしまいました。
しかし、物事の本質を理解する、OUSIAの皆さまには、本当のことを知った上でお買い上げ頂きたいため、このような記事を執筆いたしました。
何卒最後までお付き合いいただければ幸いでございます。
⒈クロコダイルの性質によるもの
クロコダイルの革はご存知の通り鰐(ワニ)の皮です。普段よく目にする牛や羊の生態はおおよそイメージすることができると思います。しかし、ワニの生態をイメージできる方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。
クロコダイルが牛革や羊革と比べ、高価になることに、大きく影響する理由を、簡単にまとめると以下の4点が挙げられます。
①育成期間の違い
②飼料(エサ)の違い
③体の大きさの違い
④気性の違い
まず挙げられるのが育成期間の違いです。主に財布に使用される30センチ幅のクロコダイル。これらは生後3〜4年ほどのクロコダイルになります。また、バッグ類に使用される50センチ幅のものだと5〜6年ほど、大きめのバッグに使用されるものだと7年以上生き延びたクロコダイルを使用します。
この数年は、力のないクロコダイルは淘汰されていきますし、もしレザーに加工されたとしても弊社の基準を満たすものにはなりません。
それに比べて、一般的な牛革だと生後1〜2年、最短だと生後わずか6ヶ月の物を使用します。
この時点で育成のコストがレザーの価格に反映されていることがお分かりいただけるかと思います。
2つ目の理由は1つの目の理由に少し似ています。それは飼料(エサ)の違いです。
クロコダイルは肉食動物です。そのため飼料は鶏頭、牛の肝臓、馬肉、鶏肉、ホッケなどの肉類になります。それに比べ牛や羊は草食動物なので、草を食べて育ちます。放牧で辺りに生えている雑草を食べたり、干し草で済む牛とは、飼育コストが比べ物にならないことがお分かりいただけるかと思います。
また、牛は生体になると平均体重が700キロにも達し、種類によっては1トンを超える動物です。そのくらいの巨大になるため、多くの面積のレザーを製作できます。しかし、クロコダイルは平均350キロほどであり、また、とても筋肉質なため、体重の割に表面積は牛ほどではありません(脂肪よりも筋肉質の方が比重が重いため)
それに加え、牛はほぼ全ての部位をレザーとして使用できますが、クロコダイルのあの美しい符(模様)は腹の部位のみ現れ、背の部位はゴツゴツとした荒々しい印象となってしまいまい、メゾンブランドで使用されることはありません。そのため、使用できる面積は、全体の半分になるため、さらに量が少なくなります。
最後に、気性の違いが挙げられます。この点はイメージが湧きやすいと思いますが、クロコダイルはとても気性が荒い生物です。そのため、クロコダイル同士のバトルなどで怪我をしやすく、どうしてもレザーに傷が付きやすくななってしまいます。そのため、レザーにした段階で爪痕や穴が開いてしまっているものが多く、また使える部分が限られてしまうのです。
これらの理由により、牛革や羊革に比べ、面積あたりのコストが上がってしまうため、クロコダイルがレザー単体としても高価になってしまうのです。
⒉生産過程によるもの
前項のように、クロコダイルは牛や羊に比べ、かなりの違いがあることがお分かりいただけたと思います。しかし、上記の違いは「皮」を「革」にする工程、「革」を「革小物」にする工程でも、大きな違いを産むことになります。
ここでは大きく分けて2つの違いが、クロコダイルが高価になってしまうことをお伝えできればと思います。
①革に加工できる工場が限られる(タンナー)
②製品を生産できる工場が限られる
まずは革に加工できる工場=タンナーに関してとなります。タンナーとは「皮」を「革」に加工する工場のことを指します。まず皮と革の違いについて説明させてください。
「皮」とはその漢字の通り、生物の皮膚です。それらに様々な加工を施すことで「革」に生まれ変わり、バッグや財布に使用できるようになります。なぜこのような加工が必要になるかと説明すると、端的に申し上げますと、「皮」のままでは使い物にならないからです。
例えば、焼き魚に皮がついていることがありますが、その皮はとてもパリパリしてすぐに割れてしまいます。そのような革小物には全く適さない物を、不要な部位の除去や「なめし」といった加工を施すことで「革」になり、柔軟性と耐久性を持った素材に生まれ変わるのです。
また、これらの工程は革のクオリティを大きく左右する工程です。原材料である皮のクオリティもとても大切ですが、生かすも殺すもこの工程だと言われています。これは料理のようなもので、どれだけ良い野菜やお肉を使用していても、シェフが上手でなければ美味しい料理に仕上がらないことと似ています。
ここまではタンナーについて説明しましたが、ここからはなぜクロコダイルが高価になるかの理由に関して説明致します。
それは一言で申し上げますと、クロコダイルを扱えるタンナーが極端に少ないからです。一方、牛革や羊革を加工するタンナーはなんと、世界中に数万社存在すると言われています。主にイタリアやフランス、アメリカ、日本などが有名な産地となっています。
しかし、それに比べてクロコダイルを加工できるタンナーは何社存在するでしょうか。「牛革で数万社なら1%の数百社くらい?」と思われるかと思います。ですが、まさかのそれをはるかに下回る「20社程度」なのです。牛革等のタンナーだと有名どころだけでも50社は超えますので、かなり少ないことがお分かりいただけるかと思います。
ではなぜここまで少ないのでしょうか?それは様々な理由がありますが、大きくは「加工が難しい、技術力を要する」「設備投資にお金がかかる」「加工に時間を要するためキャッシュフローが悪い」「失敗した際の損失が大きい」などが挙げられます。
例えばクロコダイルの加工は、牛革等の一般的なレザーに比べると、工程が大きく異なります。牛革はおおよそ10工程で完成し、最大でも20工程ほどでおおよそ半月から1ヶ月ほどで皮から革になります。しかし、クロコダイルはその倍の30工程を超え、期間も最低で2ヶ月、平均すると3ヶ月ほど要するのです。
このように時間も手間もかかるのはもちろんのこと、牛革のような一般的なレザーに比べ、技術力を要する加工の工程も多いため、クロコダイルを加工できる職人は数えるほどしかいません。また、失敗した際の損金が数十倍にも登るため、ほんの一部の、技術力と充分な設備、資金力をもったタンナーでないと加工できないのです。
これらの理由により、原材料のレザーの時点で、クロコダイルの価格が高くなってしまいます。しかし、OUSIAではほぼ全てのタンナーのクロコダイルから吟味し、最高のコストパフォーマンスをお届けできるように常に調整しております。
また、タンナーと協業し「カシミヤのようなしっとりと柔らかい柔軟性」と「エイジングを楽しめる耐久性」を持った独自開発の「カシミヤクロコダイル」を作り出しました。これは他のブランドのように、ただタンナーから良いレザーを仕入れるだけではなく「メゾンクオリティを適正価格で」を実現できるよう、レザーの段階から数年の歳月をかけ、独自のクロコダイルを開発しました。これにより、皆様に最高のコストパフォーマンスをご提供できているのです。
次に、クロコダイルを高価にする理由は、製品を生産できる工場が限られる、という点になります。これには大きく分けて2つの理由があり「加工が難しい」「失敗のロスが大きい」という点が挙げられます。
まず、加工が難しいという点について説明させてください。クロコダイルは符という凹凸があります。これが加工を難しくする理由なのです。
高級感のある革小物を生産する際に重要なのが「レザーを漉く」という作業になります。これはレザーを薄くするために裏面を削る工程です。この工程は生産する製品によって絶妙な塩梅が要求され、もしレザーが分厚すぎると製品としてゴツゴツとしたものになり、洗練された印象がなくなってしまいますし、薄すぎると耐久性に問題がでてしまいます。
クロコダイルのレザーを漉く作業は、あの凹凸が存在するため、少しでも漉き過ぎてしまうと、凹の部分に穴が開いてしまい、レザーとして使い物にならなくなってしまいます。もしそうなってしまうと、牛革であればバッグを一点制作する際のレザーのみのコストは最大でも2万円ほどなので、まだやり直しが効きますが、クロコダイルは一枚おおよそ10万円を超え、時には20万円近いレザーなので、そう簡単にやり直しはできません。
それ以外にも、縫い間違いやカッティングの際のミスの可能性もあるため、クロコダイルの加工には熟練の技が要求され、普通の工場では生産することができないのです。(したがらないとも言える)
また、クロコダイルの凹凸は、曲がり方にも影響を及ぼします。そのため充分な知識を持った職人でないと、製品が完成した際に綺麗なシェイプを実現できませんし、レザーが馴染んできた際に変形してしまいます。
これらの理由により、製品を生産できる工場が限られてしまうのです。
最後に、これらの独占に近い状況が何を生み出すか、カンの良い方はお気づきかと思います。それは需要と供給の差異によって生み出される、コスト低減が起きないということです。
例えば、牛革を扱うことのできる工場は数万社あり、ほんの一部の、ブランドが確立した工場以外は、シノギを削っている状態です。また、クオリティを上げようとしても、工場の設備には数百万から数千万円かかるため、容易に行うことはできません。
そうなると唯一勝負できるのは価格のみとなります。そのため牛革などの一般的なレザーは日々、クオリティの向上に反して、価格は下がっています。これは職人歴が25年を超える職人と、長い間革小物を取り扱ってきたOUSIAメンバーが同意見で明らかな点なのです。
それに比べ、クロコダイルはタンナーがわずか20社程度しか存在せず、革小物として生産できる工場も数えるほどしかないのです。そのような状況では、たとえ原材料の時点でも、または生産の時点でコストを下げたいとしても「それなら他に頼んだら?やってくれるわけないから笑」と言う殿様商売のような状態を生み出すのです。
しかし、OUSIAは現在のメゾンブランドの主流になってしまいつつある、クオリティと価格が見合っていない状況を悲観し「メゾンブランドのクオリティを適正価格で」「もうブランドネームにお金を払うのは終わりにしよう」をモットーに立ち上げました。
現在のメゾンブランドと呼ばれるブランドが、世界中でこれほど認められているのは「ブランドロゴがカッコ良いから」ではないのです。「高品質なものを制作し」「クオリティに見合った価格」であったからなのです。
これを革小物ブランドの本質(OUSIA)であるとし、さまざまな分野のプロフェッショナルが集まり、その状況を打開すべく、前述のモットーを掲げ、「革小物の本質はクオリティでありブランドネームではない」ということが当たり前に戻るよう、日々切磋琢磨しています。
⒊販売者によって作り出されるもの
ここまでお付き合い頂き誠に有り難うございます。長年この産業に関わり、それに加え、いちレザー好きな消費者の立場から、少し熱くなり過ぎてしまいました。この章で最後となりますので、もう少しお付き合いいただければ幸いです。
この章では販売者によって作り出される原因について記述して参ります。
①意図的に生産数を絞ることで利益率を上げる
②補償問題になった時に面倒だから(補償に対する保険の意味)
ここまで散々クロコダイル製品は希少だから高価になる!と力説していましたが、実はクロコダイルは年間約100万枚生産されていると言われています。これは一般的な長財布であれば、1つの製品に対して1枚使うため約100万個、弊社が販売しているバックパックだと3枚使用するため約33万個生産できる計算になります。
もちろんこれは総生産数であり、クオリティの高いものばかりではありません。ですが、少なくとも数千個は生産できる計算になります。
(ちなみに他のレザーだと牛革単体で約4億枚生産されていると試算がありますので、それに比べるとはるかに少ないですが)
ここで「数千個生産できる時点で充分な供給量があるのでは?値段も下げられるのでは?」となると思います。メゾンブランドであれば、お財布で100万円、バッグだと500万円から1000万円ほどになるので、市場に対する充分な供給量になり、需要と供給の法則に従い、価格も下がるはずです。
ではなぜ未だにクロコダイル製品が高価なのか。それは意図的に生産数を絞り、需要を煽ることで価格を引き上げ、利益率を高めるためなのです。
革小物の生産者の立場から見ると、一般的なメゾンブランドの利益率だと、クロコダイルは牛革の同型の製品に比べて、10倍の利益をもたらします。これは、売り上げ自体は、5から6倍程度ですが、利益率が約2倍程度になるためです。そうなると牛革の製品を10点売ることと、クロコダイルの製品を1点売ることでもたらされる利益額は同じになります。
また、すでに販売したことのある顧客に対しても「他の人よりも良いものが欲しくないですか。希少で他の人と被りませんよ。」と言ったアプローチが可能になります。同一の顧客に対して10個のバックやお財布を販売するのはとても難しいことですが、すでに販売したうちの、一部の上顧客に対して、アップセルを促すことができるのです。
このようなブランド戦略によりクロコダイルの値段を釣り上げているという一面があります。
それに加え、補償問題になった時に面倒だから、という理由により、保険の意味をこめて値段が上がっているということも挙げられます。
例えば10万円の財布と100万円の財布があれば、100万円の財布の方を丁寧に使うことは明らかです。また、巷に溢れる「クロコダイルはデリケート。水濡れは絶対にダメ。」という印象も作り上げられたものといっても過言ではありません。
考えてみてください。自然界に存在している牛と鰐は、どちらの方が生物的に強靭でしょうか。それは明らかに鰐であり、レザーに関しても、牛革とは比べ物にならない革密度と、タンパク質構成を持っているため、レザーとしてはクロコダイルの方が耐久性があります。
しかし、どのレザーにも言えることですが、基本的に革というものは水に濡れてしまったり傷がついてしまうと、何らかの跡が残ってしまいます。これは革という性質上仕方がないことなのです。(表面にビニールコーティングや撥水加工を施しているものは除きます。これらは革本来の良さを全く生かしておらず、合成皮革や塩ビと変わらないため)
これを「クロコダイルは水に弱いから」という表現をすることで、使用者に丁寧に扱わせることで、補償問題を解決しているのです。
しかしOUSIAは違います。クロコダイルの持つその特別な素質を生かした加工を施し、耐久性を最大限に高め、一般的な牛革などの革製品と同じようにご使用いただける設計にしております。これは弊社のモットーである「メゾンクオリティを適正価格で」を実現するとともに「クロコダイル製品を普段使いできるプライスで」というモットーも実現しています。
◆終わりに
ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。専門的な部分まで記述してしまうと、これらの文章の3倍にはなってしまうため、一部を抜粋した内容となってしまいましたが、これだけの知識があれば各ブランドのスペシャリストとも対等に話せるレベルの内容となっております。
しかしここまで「なぜクロコダイルが高価になるのか」を説明すると「やはりクロコダイルの革製品が欲しい!」となるか「なぜそこまでしてクロコダイルの革製品を買うの?牛革や羊革で良くない?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
次の記事では「なぜクロコダイル製品は選ばれ続けるのか」を特集いたします。近日公開予定ですのでぜひそちらもお読みいただければ幸いでございます。
また、ご質問等ございましたいつでもお気軽にお問い合わせくださいませ。各分野のスペシャリストで構成されるOUSIAのメンバーが回答いたします。
それでは、改めまして、ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。引き続きOUSIAをよろしくお願い致します。